本記事はProptech領域において目覚ましい成長を遂げている米Procore社が2022年11月に公開した2022 Procore Investors Dayでのスライド資料を基に、同社の現在の立ち位置や今後の方向性についてをまとめたものです。
目次
会社概要
Procore Technologies(プロコア テクノロジーズ)社は2002年に現CEOであるCraig Tooey Courtemanche氏が創業したアメリカはカリフォルニア州カーピンテリアの建設管理ソフトウェア企業です。同社は建設事業者や土地・不動産オーナーなど建設プロジェクトの関係者がデジタルプラットフォームを通じて、プロジェクト実行に向けてたあらゆる業務を効率化させることに取り組んでいます。2021年5月時点で、世界中で160万人以上を超えるユーザーが製品を利用しています。
ビジネスモデル
プロコアのビジネスモデルは多くのSaas企業とは異なり、アカウント数に応じた課金制ではなく、機能数に応じたプランと「年間建築ボリューム(Annual Construction Volume)」によって決定されます。つまりアカウントは無制限に発行可能であり、あくまで機能数とプロコアを通じて取り扱う建設プロジェクトの規模の大きさに比例して請求がなされるというものなのです。これは、プロコアが提供しているソフトウェアが「建設」という多くの人々が関わるフィールドに対する製品サービスであるからです。
また、このビジネスモデルは建物オーナー、地主、建物管理会社、建設業者、その他業者など異なるレイヤーの人々の使用を想定しているために無制限のアカウント発行を可能にしていると考えられます。
プロコアが顧客から選ばれる理由
2022 Procore Investor dayの資料によれば、建設会社がプロコア社のソフトウェアを選ぶ理由は以下の六点だとされています。
- 建設プロジェクトに特化している
- リアルタイムに情報が更新される
- 意思決定に必要な情報が視覚的な形で入手できる=ダッシュボード
- 容易に導入できる
- アカウント無制限なので、関係者全てがプラットフォームに参加できる
- カスタマーサクセス
可視化できるリスクマネジメント
プロコア社が提供しており、ゼネコンや不動産管理会社から高い需要がある機能「Quality&Safety」についてここではご説明いたします。
「Quality&Safety」機能は、主にプロジェクトの品質管理やリスクマネジメントのためのツールです。例えば上記の画像右側のように、リスク管理のためのチェックリストが存在していたり、現場側で安全性の基準を満たしたプロジェクトとなっているかを確認することができます。
また、上記画像のように日常業務の中で発生したリスクとなりうる情報をリストアップし、リスク度や緊急性に応じて優先順位を付けたり、承認を上長に依頼する機能もあります。これによって現場監督やオフィスチームでも、リアルタイムに現場で起きている問題を把握し、管理することが可能になっています。
さらに、プロコアは現場からのリスクマネジメントに関わる情報を収集し、重大インシデントが発生しないように傾向を分析する機能も提供しています。
収益内訳
現在のプロコア社の収益内訳を見ていきましょう。ARRとはAnnual Recurring Revenueのことで年間経常収益を表します。つまり上記画像は同社の経常収益の内訳を円グラフにしたものです。
同社の経常収益の半分を占めているのは中心機能であるプロジェクト管理機能、そして並んで財務会計機能と品質保証機能が15%ほどを占めています。
顧客ごとの機能ニーズ
上記画像は同社の顧客である建設会社(ゼネコン)、その下請け業者、そして建物管理会社やファンドなどの建物のオーナーそれぞれがどのような機能に最もニーズを感じているのかを順位づけした表になります。
まず建設会社(ゼネコン)については、
1.プロジェクト管理
2.プロジェクト財務会計
3.品質管理・保証
4.インボイス管理
5.分析
次に下請業者に関しては、
1.現場管理
2.現場スケジュールプランニング
3.見積もり算出、確認
4.プロジェクト管理
5.プロジェクト財務会計
そしてオーナーは、
1.プロジェクト財務会計
2.分析
3.プロジェクト管理
4.入札管理
5.品質管理・保証
を求めているという結果が分かりました。
オーナーが抱えている課題
上では各顧客が高いニーズを感じている機能についてを紹介してきましたが、以下では特に建物オーナーが抱えているニーズ(ペイン)について、より具体的に5点紹介していきます。
1.予算内でプロジェクトを終了させること
2.スケジュール通りにプロジェクトを終了させること
3.高品質な建築物が納品されること
4.ゼネコンや建築家からの情報共有
5.複数の地域での建築プロジェクト管理
以上から、プロコアが想定しているようなオーナー像は単なる大家さんではなく大手の建物管理会社やグローバル不動産ファンドなど大規模に不動産を保有しているオーナーであるということが推察されます。
ケーススタディ
プロコア製品を利用している事業者の一例には、マサチューセッツ州の「Boston Children’s Hospital」があります。同病院はこの10年間、財務管理や経費管理がエクセルベースであることやプロジェクトデータがバラバラであったせいで、リスクがある中で増築や建物管理が行われてきました。
そこで、Oracle(オラクル)ERPやHyperion Capital Planningとも連携でき、よりプロジェクトを能率的に進めるためにプロコアを利用し始めました。
その結果、
1.現場とオフィスの全員が財務や予算状況をリアルタイムで確認できる
2.建設データが自動的に入力され、手動で更新する必要がなくなった
3.入札に使うような情報共有依頼書(RFIs)や写真、設計図に容易にアクセスできるようになった
などの点で、プロジェクトのリスクマネジメントや情報共有レベルを大きく改善しました。
プロコアの今後の目標
プロコア社は、自社のユニットエコノミクス(1顧客あたりの採算性を示すKPI)の目標を
「LTV/CAC = 9x」、つまりLTV(ライフタイムバリュー)がCAC(1顧客当たりの平均獲得コスト)の9倍以上であることと設定しています。また、同社が展開している国内では「LTV/CAC = 11x」、海外では「LTV/CAC = 4x」と設定しています。
この違いは顧客獲得の難易度によるものが大きいのではないかと考えられます。一般的にSaaS企業の目標のユニットエコノミクスが「LTV/CAC = 3x」であることを踏まえると、プロコア社は非常に高い収益性を誇っていると言えるでしょう。
今後の戦略
今後の戦略について、プロコア社は以下の4つを重点分野として挙げています。
・プラットフォーム間の接続
非常に多くの人員が関わることで複雑化を増す建設プロジェクトに対するプラットフォーム連携の改善
・決済サービス
プロジェクト管理や財務会計機能、インボイス機能を通じて得た情報を基にした決済サービス
・建築資材への融資サービス
現場レベルでのニーズや予算の管理をになってきた実績を活かして、建築資材の資金調達や融資をサポート
・保険サービス
同社の品質管理・保証サービスにて培ったリスク評価能力に基づく保険サービス
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
建設管理ソフトウェアのトップランナーであるプロコア社の現在位置と今後の戦略は、今後の業界全体の未来を予想できる手がかりになるのではないかと思っています。今後もプロコア社の動向を追ってまいります。
参照
2022 Procore Investors Day Presentation
https://s27.q4cdn.com/467206001/files/doc_presentation/2022/11/2022-Investor-Day-Deck-[FINAL-FOR-UPLOAD].pdf